「何か、食べ物をくれ」
「…よそ者はごめんだ」
「金ならある」
「…どこか、よその街に行ってくれ」
「…一番、近い街でも三日はかかる。簡単なものでいい」
「断る」
「ワーニャ!
久しぶりのお客様でしょ?」
「何を言ってるんだ、エレーナ?
うちは、この通り、いつだって満員だ」
「毎日、毎日、同じ顔ぶればかり…
私は、ここじゃないどこかの話を聞きたいの!
…そこに座って!」
旅人よ
聞かせてくれ
今日までの日々の物語を…
このパンや赤ワインに
値するほどの話がない
しあわせだけど
何かが足りない
教えて ここにないのは
新しい花粉 求めてるんだ
まだ見たことがない花を咲かそう
偶然 運ばれた奇跡のその種
誰にも気付かれずに
明日(あす)は変わってく
「あの山の向こう側には、どんな世界が広がっているの?」
「また、次の山がある」
「その山を越えると?」
「また、次の山があるんだ」
旅人は
願っている
やすらぎの場所を見つけたいと…
何百年 この景色は
新しい影を受け入れてない
愛されたいと
初めて思った
永遠もそんなに悪くない
退屈な風はいつも優しい
どんな時も同じ温かさで
当たり前のように吹き抜けてくよ
昨日を繰り返して
未来は生まれる
「私を連れて行って!
あの山の向こうに…
ここではないどこかへ…」
「おまえは気づいていない」
「何が?」
「この酒場が、あの山の向こうってことを…」
いくつもの山を越えてみたって
次の山がそこに見えるだけ
私たちが住むこの街以上の
花咲くユートピアは
どこにもないんだ
新しい花粉 求めてるんだ
まだ見たことがない花を咲かそう
偶然 運ばれた奇跡のその種
誰にも気付かれずに
明日(あす)は変わってく
「そうだ。
おまえが今、退屈に暮らすこの街こそが、
あの山の向こうから見れば、希望の街なんだ」
「ここが理想郷…
って、説教くせえ~!」